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ドラゴンクエストXとジェンダー差別

最近、ドラゴンクエストXを進めている。

私が好きなゲームは、Undertaleとか、ポケダンの赤の救助隊とか、少しダークな話が多いので、ドラゴンクエストは王道RPGだろうと斜に構えてプレイしたことがなかった。

ドラゴンクエストXはオンラインゲームなので一緒にやろう、とパートナーに誘われて、現在少しずつ進めているところだ。

ゲームには多かれ少なかれジェンダーロール的な描写が含まれていて、特に古いゲームならなおさらだと思う。

私はそれを、無警戒に鵜呑みにせず「ここはよくないジェンダーロール描写だから現実に持ち込んではいけないな」と分離しながらゲームを楽しむことが大切だと思っている。

だから、ゲームにジェンダーロール描写があること自体を特定のゲーム名を挙げて批判したりはしない。

なぜこれを書いているかというと、ドラゴンクエストXの一部のストーリーが、ジェンダー差別の観点で考えたときに、あまりにもわけがわからなかったからだ。

わけがわからなかった、というのは、酷すぎて理解できないという意味ではない。

批判的に見たらいいものか、新しい価値観の提案として受け入れたらいいものかの判断すらつかない。

誰に何を訴えようというものではなく、ただ、考えれば考えるほど混乱するので、アウトプットして、みんなに「どう思う?」と聞いてみたかった。

 

その内容の都合上、一部のストーリーのネタバレが含まれる。

エスト名としてはメインストーリーの一部ではあるが、飛ばしても進行できるもので、ある種サブストーリー的でもある。

ドラゴンクエストXを最後までプレイした人でも、このストーリーをプレイしていない人は多くいると思う。

ネタバレ回避をするかどうかの参考にしてほしい。

ちなみに私は今バージョン5まであるうちのバージョン2まで終わったところで、最後までプレイしていない。

もしかしたら今後この物語の続きが描かれるかもしれないが、そこはまだ読んでいない。

 

私が混乱したのはヴェリナード編のストーリーだ。

ヴェリナードは、魚人モチーフのウェディと呼ばれる種族が住む町で、建築物の至るところに貝殻のモチーフがあしらわれている。

ヴェリナードに入ったところで、主人公は「女王の恵みの歌の時間だから聞いていきなよ」と引き留められる。

この町では、女王が歌に超常的な力を込めることで、発展が維持されているらしい。

女王には一人息子の王子がいて、主人公は王子に声をかけられる。

占い師が、王子に助っ人が現れると予言していて、どうやら主人公がその助っ人だということらしい。

事情を聞いてみると、一族の掟で立ち入りを禁じられた洞窟に、女性が封印されているのを占い師が予言したのだと言う。

実際に確かめに行ってみたら本当に女性が封印されている。

女王に問い詰めても、とにかく入ってはならないと言われるばかりで話にならない。

王子はその封印を解いて女性を助けたいので、力を貸してくれ、とのことだった。

主人公と占い師の協力のもと、王子は封印を解くための歌を伝授することに成功するが、歌っても効果が現れない。

ここで、占い師の態度が豹変し、王子を使えないやつだと罵倒する。

占い師であるというのは王子を騙すためについた嘘で、本当の狙いは王家のものに封印解除の歌を歌わせることで、巫女を生け贄に封印された魔物を解き放つことだと言う。

しかし、男には歌に超常的な力を込めることができないため、無駄に終わったらしい。

占い師は作戦を変え、王子を巫女と一緒に封印の生け贄に加えてしまう。

そのことを知った女王が駆けつけ、町と息子を天秤にかけて迷う。

冴えない中年男性の風体をした女王の夫が、「私たちは、女系王家の伝統を破ってでも息子を王にすると誓ったじゃないか。迷う必要はない」

と励まして、女王は封印解除の歌を歌う。

魔物が解き放たれてしまうが、封印が解かれた巫女と女王の協力の下主人公が魔物を討伐する。

 

これが、バージョン1までの物語。そして、バージョン2クリア後、以下のエピローグが解放される。

 

王子は、王となるための恵みの歌の習得に苦労していた。

そこに巫女が「恵みの歌は女性にしか歌えない。男性用の歌は最後の王が封印したからだ」とアドバイスを告げる。

そのアドバイスを受けて、考古学者と主人公の協力の下、王子は最後の王の残した石板の解読をする。

その結果によると、王は当時魔物の封印に娘を生け贄に捧ざるをえなくなったことを後悔していたらしい。

だから、男の使命は国を守ることよりも先に家族を守ることであるべきだと考え、王位を退位し、男性が王とならないよう男性版恵みの歌を封印したのだという。

しかし、後世の王家の男性が王位を継ぎたいと思うことを考え、男性版恵みの歌を男性が継承する術も残していた。

継承のための試練の戦闘をこなした、と思ったら、試練の魔物が最後の力で王子の命を狙う。

冴えない中年男性かに見えた女王の夫が優れた剣技を見せ、王子を見事守って見せる。

「ウェディの男の使命は家族を守ることだ。お前に王としての立場と男の使命を両立できるのか」

と息子に語る、冴えない中年男性の見た目をしたウェディ一の剣士。

王子は無事歌を習得し、「国も家族もどちらも守る」と誓う。

 

以上で私の知ってる範囲のヴェリナードの物語の全てだ。

この物語に対して感じる私の謎は、現実世界で言われる「男は家族を守れ」の意味合いとのギャップだ。

「男は家族を守れ」というのは、具体的には命をかけて戦争に行って国を守る、身を粉にして働いて家族に金を入れる、といったものを指すことが多いと思う。

私の理解では、それらは、社会や権力のために尽くすことで間接的に家族を守るという意味のはずだ。

戦争から逃げて家族を逃がすために家族の側にいたり、育休など家族を助けるために仕事を休むことは、男性ジェンダーロールでは批判される行いのはずだ。

社会での立場を捨てて家族に尽くすことを求められるのは女性であり、男性が社会を守る務めを捨てて家族を守ることを優先することは男らしさに反すると呼ばれると思う。

 

私には、この物語は、そういった通常男らしくないと言われる行為を「男の務めは家族を守ること」という言葉で美化し肯定しているように見える。

「よくあるジェンダーロールの再生産」と一言で切って捨てるには状況が複雑だ。

しかし、「男らしさの再定義」と肯定するには詰めが甘い。

家族のために権力を捨てることを求められるのは、現実で女性が直面している問題で、決して肯定していい行いではない。

「男は家族を守る」という呪い自体からも逃れられていない。

女系国家を描くことで女性のエンパワメントをしていると主張するにも詰めが甘い。

王の決断で女系王家になることが決まったのだとすれば、結局女性自身の主体性で起こったことではなくなってしまう。

今の時代、キャリアを積み重ねる機会を与えられなかった中年男性、氷河期世代が社会問題となっている。

その意味で捉えれば、中年男性の価値をキャリアで評価するのは間違っている、偏見を持たずに個人の能力を評価するべきだ、というメッセージに見えなくもない。

そうだとすると今度は、現実のキャリアを持っていない中年男性は家族を持っている人が少ないという現実との解離がある。

 

結局、なにを描きたかったのだろうか。

まさか、現実の男女が置かれている状況を何も知らない、社会から隔絶された人間が書いた物語なのだろうか。

それとも、何かメッセージを伝えようとして、時代の限界がゆえに、詰めが甘くなったのだろうか。