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ポケモンコレクター沼の深淵

ポケモン交換掲示板というものがある。  

その名の通りポケモン交換をするために人が出会う掲示板だ。

高いワインや高いガンダムプラモ、高いカードに恐ろしい値段がつくように、ポケモン交換掲示板でも、プレミアのつくポケモンというのがいる。  

ラッキーとかミニリュウとか、そういう「すぐ逃げるからなかなか捕まえられない」ポケモンたちや、ミュウやジラーチのような、映画前売り券限定特典ポケモンが珍しいのはご存知の方も多いだろう。  

しかし、そういう次元ではなく、ミニリュウやミュウを何体積んでも交換してもらえない、ポケモンコレクターであれば誰もが憧れる激レアポケモンたちというのがいるのだ。  

そして、ときにそれらは、人を犯罪に走らせる。 

改造で偽装したものを交換掲示板で高値で売り付ける人達が現れ、改造産か本物かを確かめてくれ、なんて依頼が掲示板で飛び交う。 

ポケモン界のそういった呪いの宝石たちを紹介しようと思う。  

 

先に断っておくと、私がポケモン交換掲示板に出入りしていたのは2013年あたりの、BWからXYへの移行期で、この記事はその時期の情報に基づいている。  

現在は全く様子が変わっている可能性もあるので、少なくとも昔はこうだったんだ、と思って読んでほしい。  

 

ポケモン交換掲示板は、純正品のポケモンはまず出回らない。  

取引の対象になるのは、乱数産、コピー産、改造産だ。  

 

乱数産とは、本体時間を調整することで疑似乱数をコントロールする乱数調整で強い個体になるように調整されたポケモンのことだ。  

疑似乱数の初期シードが本体やソフトごとに異なるため、疑似乱数を再現するソフトウェアを使っていいシードを探す。  

この疑似乱数を再現するソフトウェアを作った人は、ゲームを解析して作ったはずなので、著作権法違反である。  

そのソフトウェアを使って乱数調整をすることは、私の知ってる範囲では法律では規制されていないが、違法に作られたソフトウェアを使う以上グレーゾーンには違いない。  

 

コピー産は、主に乱数産や貴重なポケモンをバックアップ技術を使ってコピーしたもの指すことが多い。  

ゲームデータを吸い出してバックアップをすることは合法ということになっている。  

ただ、吸出しは違法な改造にもよく応用される技術であり、コピーもゲームを改造はしていないものの本来意図した用途とは異なることは間違いない。  

 

改造は、なにせ違法なので、詳しい技術はまっとうに利用している範囲だとわからないものの、違法だという共通認識を持たれている。  

改造産を取引する改造隔離掲示板もあったが、多くの善良なユーザーにとっては改造産は騙されて掴まされる爆弾のようなものだった。  

 

まず、一回のプレイで一体しか手に入らないポケモンたちは掲示板ではコピーしか出回らない。  

誰もそんな怪しい掲示板の見ず知らずの人間のために、うちのかわいいポケモンを手放したりはしたくない。  

自分で手に入れたポケモンのコピーであれば自家産と呼ばれて泊がつくが、多くのコピーポケモンは、売りに出している持ち主自体誰かからコピーをもらってきたものであることが多い。  

ひどいときは、コピーすら自分では手を染めずに誰かに外注している場合もある。  

もはや交換というより小売店の様相である。  

 

これから話すポケモンたちは、そういった世界で取引されているコピーが前提のポケモンたちだ。  

コピーすら手に入れられなくて渇望するプレイヤーが続出し、その挙げ句改造に走らせるようなポケモンたちである。  

悪い人がいるもので、簡単に誰でも改造ポケモンを作れるツールというのが、定期的に流行るのだ。  

どうしても手に入らない憧れのポケモンを、簡単に作れる、バレない、となれば手を出してしまう人も多かろう。  

 

違法なツールを作る人が、まともに善意でツールを提供してくれるわけがない。  

どんなウィルスを仕込まれるか、どんな犯罪ターゲットリストに追加されるかわかったものではないので、これを読んだ読者には憧れのポケモンを作れるツールと出会っても使わないでほしい。  

 

コレクター以外のポケモンプレイヤーにも有名なのは、映画前売り券限定配布の零度スイクンだろう。  

スイクンは金銀世代の準伝説ポケモンで、これ自体は普通のポケモンに比べれば捕獲が難しいものの、プレイしていれば誰でも手に入れるチャンスのあるものだ。  

この限定配布の通称零度スイクンの特殊なところは、通常プレイでは覚えない技、ぜったいれいどを覚えていることだ。  

これがめっぽう強い。  

どんな敵であろうと3割の確率で瀕死にする技で、期待値的には三回撃てれば一体倒せることになる。 

一体で一体倒せば勝てることを考えたら、四回撃てれば有利に立てる。 

もともとスイクンは耐久能力が高く、タイプ相性も弱点が少なくて、スイクンを3ターンで倒すのは至難の技だ。  

ポケモンバトルの基本は、お互いに有利なタイプを押し付けるサイクルだ。 

交換で有利なポケモンを出し、相手が有利なポケモンに交換してきたら、またこちらも有利なポケモンに交換する、というサイクルを繰り返す。 

交換際に交換先のポケモンに一発食らわせられるので、その交換際のダメージを蓄積し、どちらが先に耐えられなくなるかの勝負になる。  

零度スイクンはこの法則を無視して、不利なはずの相手に等しくプレッシャーをかけてくる。

どんな敵であろうと等しく確率で瀕死にするから、スイクンを出してきたと思って、水タイプのスイクンに有利な草タイプを出そう、と思うと、交換際に「ぜったいれいど」が飛んできてノックアウトされる可能性がある。

スイクンに不利な一体が倒されることと、本来ならスイクンに有利でスイクンを倒す役割を持つはずのポケモンが倒されることはまったく重みが異なる。

ポケモンバトルは3vs3だから、残りの2体に自分の手持ちに他にスイクンに有利なポケモンが残ってなくて、ぜったいれいどが決まった瞬間に負け確定なんてことがざらに起こる。  

悪魔のような性能を誇ることがおわかりいただけただろうか。 

ランキング上位に入るには零度スイクン前提なんてレベルで大流行したこともあった。 

それだけ強くて需要があるのに、こいつが期間限定の配布もので、映画前売り券を買わないと手に入らなかったのだ。  

ポケモンが同じ種類でも個体ごとに強さが異なり、廃人は厳選するというのは有名な話だと思う。 

零度スイクンにも個体差がある。  

ぜったいれいどを覚えた乱数産の強いのスイクンを持っている人は、まさに勝者、誰もが憧れるリムジンで登校してくるブルジョワジーだった。  

 

しかし、実はこの零度スイクンは、需要は高いが入手難易度としては映画前売り配布なので、貴重なポケモンの中では比較的手に入れやすい部類に入る。  

レートで言えば、二体か三体乱数をしてあげれば、コピー産零度スイクンで交換してもらえる感じだ。  

強さとか抜きにして、貴重さという点において本当にプレミアがつくポケモンたちは別にいる。 

これらは、対人戦だけやっている人たちは興味を示さないが、コレクターたちの間で高値がつくポケモンだ。  

その代表的なものが、XD産と呼ばれるポケモンたちだ。  

 

実はポケモンシリーズには、ゲームキューブポケモンコロシアムという番外編シリーズがあった。  

そして、そのポケモンコロシアムで捕まえたポケモンは、通常のポケモンシリーズに連れてくることができた。  

最初に出たポケモンコロシアムポケモンたちは、通常プレイで手に入るものとあまり差がなかったのだが、続編で出たポケモンコロシアムXDで捕まえたポケモンたちは、通常プレイでは覚えない技を覚えていた。  

こいつらが、XD産と呼ばれる、当時のコレクター達にとって一番価値の高いダイヤモンドだ。  

うたうを覚えたガラガラ、トライアタックを覚えたトゲピーなどなど。


どれだけ貴重かというと、そもそもゲームキューブポケモンコロシアムXDと、通常のポケモンシリーズとの通信環境を持っていなければ手に入らないのに加えて、このコロシアムシリーズ、通常のポケモンよりプレイ難易度がめちゃくちゃ高い。  

野生のポケモンがいないので、レベル上げができない。  

そして、モンスターボールを投げたときの捕獲率が、通常のポケモンシリーズと比べて異常に低く設定されている。  

珍しいポケモンを狙わずとも、普通にクリアするだけで難しい。  

厳選云々以前に、そもそも捕獲できないのだ。  

手に入るモンスターボールの数も限られているから、サンダーを狙って粘りすぎてボールが尽きてゲームが詰むとか、そもそも捕まえる以前にこっちが瀕死になって負けるとか、そんな事態がざらに起こる。  

 

そして、捕獲できても強い個体だとは限らない。  

XDは乱数が解明されていないので、厳選するしかない。  

そしてなんと、厳選を鬼畜にするでかい要素として、セーブポイントがかぎられている。  

フィールドのどこでもセーブできるわけではない。  

つまり、捕まえてみて個体値がよくなかったからやりなおし、となったら、セーブポイント地点からやりなおさないといけない。  

四天王のボスが使うポケモンを厳選したかったら、四天王戦を最初からやりなおさないといけない。  

非現実的だ。   

一周何時間もかかる気を張りつめっぱなしの 作業を、何百週何千周もすることを考えたら、拷問か修行かのようである。  

そしてその結果手に入るのがたかだか技がひとつ違うだけのポケモンである。  

なんのために生きているんだかわからなくなってくるが、それでもやっぱりXD産ポケモンは、コレクターにとってはそれだけの価値があるきらめく宝石に見えるのだ。  

入手が拷問だからこそ価値があり、その価値を求めて拷問を受けるのだから、もはや拷問そのものが価値を生んでいるといってもいい。  

いい個体が出るかは完全に運なので、次こそはいい個体が出るかもしれない、と希望をかけて繰り返すのである。  

時間はドブに捨てることになるが、パチンコに金を溶かすことに比べたら、ゲームキューブとXD代しかかかってない分マシかもしれない。  

 

XD産の一番人気はきんぞくおんサンダーだ。  

XD産がダイヤモンドなら、金属音サンダーは45カラットのダイヤモンドだ。  

まさに呪いの宝石。  

 

きんぞくおんを覚えたサンダーが、通常のサンダーより強いのかは微妙だと私は思う。  

きんぞくおんは相手の特殊防御力下げる技で、相手が交換するまでその相手には特殊攻撃が二倍のダメージが入るようになる技だ。  

確かにサンダーは特殊攻撃の強いポケモンなので、相性はいいが、きんぞくおんは相手が交換してしまえばそれでおしまいだ。  

きんぞくおんを覚えるポケモンは他にもいるが、普通ポケモンバトルで使われる技ではない。  

それでも、XD産ポケモンの中で、特別捕獲が難しくサンダー自体が強いポケモンなので、交換レートに高値がつき、滅多なことでは交換してもらえない。    

コピーであっても、自家乱数産コピー零度スイクンの二倍ぐらいの価値はつくだろう。 

自家ではない人からもらってきたポケモンの場合は何体積んでも相手にしてもらえない。   

もはや、勝負に勝つために貴重なポケモンを集めているのではない。  

貴重なポケモンを自慢するために勝負をしている。  

いや、もはやこういったポケモンを集めている人たちはバトルすらしてないだろう。  

きっと強い、といつか戦われたときのことを夢見て、ポケモンボックスに眠らせているのだ。  

もはや実際に強いかは関係ない。  

強そうで夢を見せてくれることが大事なのだ。  

 

ポケモンにはめざめるパワーという、個体によってタイプの異なる技がある。 

個体を厳選すれば好きなタイプを狙えるので、特殊攻撃アタッカーには人気の技だ。  

特にサンダーはステータスが高いのに他の攻撃技にあまり恵まれないため、めざめるパワーで補うことが多い。  

きんぞくおん持ちで強いめざめるパワーを持ったサンダーが、私が知ってるなかで一番高値のつくポケモンだ。  

ただし、未だに本物だと信頼できるものをお目にかかったことはない。  

私が見たことがあるのは改造の疑いが高いものばかりだった。  

本物の、めざめるパワーひこうかめざめるパワーこおりを持った、ひかえめかおくびょうの金属音サンダーがいるなら、手に入らなくてもいい、一目見てみたいものだ。  

めざめるパワーの厄介なところは、ステータスみたいに数値が高ければいい、という連続したものではないので、妥協できるラインが存在しないことだ。  

タイプが違ったら、惜しいとかではなくてまったく意味がなくなってしまう。  

 

開けてみるまで特性がわからないDX産トゲキッスの罠や、零度スイクンばりに人気のエメラルド産の地球投げラッキー、図鑑特典加速アチャモと貴重なポケモンの話題は尽きないし、色孵化乱数の技術話やお洒落ボールの文化の話も面白いと思うんだけれども、いい加減すでに長すぎて読者が飽きると思うので、一旦この辺で切り上げることにする。  

ポケモンの他の話題はまた別の時にでも。