コンパクトでない空間

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ギルドで姫をしていたネトゲ廃人中学生の話

最近WHOがゲーム依存を病気認定したとかなんとかの話題で思い出したっていうだけの話で、別にWHOの決定に賛成とか反対だとかいう話ではないんだけど、ネトゲ廃人の女子中学生が課金アイテムを貢がせて姫をしていたなんて話はちょっと一般人には物珍しくうつるかな、と思って書くことにしてみた。
私は物語を盛り上げるようなセンスはなく、ただ淡々とあった事実を書いていくだけなので、読み物としてはまったく面白くないと思う。
物珍しくて興味深いなと思った人だけ読んでくれればいい。
なにを感じるのも読む人の自由だと思うので、それぞれ好きに読んでいて構わないけど、願わくば、姫だとかネトゲ廃人だとか独り歩きしてしまった言葉の真相がどういったものであるのか、なにそれ怖いと蓋をしてしまわずに直視するきっかけになってくれればうれしいなと思う。

私は小学校高学年のころからネトゲライトノベルが好きだったので、ファミ通文庫の出しているモンスターハンターシリーズも読んだし、それをきっかけにモンスターハンターフロンティア(MHF)というネトゲに手を出したりもしていた。
当時私は中学一年生で、月額3000円近い課金には手を出せずに、レベルが2から上がらない無料お試しプランでログインし、もっぱらゲームはプレイせずに猟団部屋(ギルドルームに相当する概念)で駄弁るばかりだった。
この頃から既に、男にモテる女の話し方の特徴7つ、みたいな感じのいろいろを読み漁り、聞き上手、誉め上手を目指して会話をしていた気がする。
なんでそんなことをしようと思ったのかは覚えてはいないけど、少なくとも金銭目当てではなかったことは確かだ。
相手に喜んでほしかったのか、他人に求められることで自分には価値があると安心したかったのかは、もう忘れてしまった。
そこで出会ったN氏が私のオタサーの姫プレイの最初の被害者となる。
N氏は20代後半だったと記憶しているが、いたく私をかわいがり、「MHFにも飽きてきた。MoEというネトゲに移動するが、ついてこないか」と声をかけた。
このMaster of Epicというネトゲが私の人生に一生残る杭を突き刺したゲームである。

当時はメイプルストーリーとかノーステイルとかそんな感じのかわいらしいゲームが流行っていたけれども、MoEはリアル調3Dのゲームで、自由度が恐ろしく高いゲームだった。
ヒル型の便器のスカートとか、たい焼きの被り物とか、わけのわからん変態的装備がいっぱいある、カオスに満ち溢れた世界で、私はそこがいたく気に入り、適当にその辺でたむろしていたフェローシップ(ギルドに相当する概念。FS)に入り、そのコミュニティに居ついた。
N氏は私に「効率のいいゲーム内通貨の稼ぎ方を見つけた。それには自分ともう一人必要だ。必要なアイテム等はこちらで用意するから、バイトしないか。報酬にゲーム内通貨でオークションで課金アイテムを買ってやる」と話をもちかけ、それからしばらく私はFSの人たちと遊ぶ傍ら、N氏の元でバイトをしていた。
そのころから私はややN氏に合わないという感覚を抱きはじめていて、断るのが怖かったから受け入れたものの、N氏との関係はFSメンバーには教えていなかった。
N氏の見つけた稼ぎ方は実際効率がよく、私がもらっていた分け前は稼ぎの半分弱程度で、不当に大量の報酬を受け取っていたわけではないが、FSの人たちが、中学生が自分で買ったとは思えない課金装備をそろえていく様をどう思っていたのかはわからない。
N氏とは、しばらくして「最近冷たくないか」と文句を言われたタイミングで、勇気を出して「私はFSの人たちと遊びたい。あなたにはついていかない」と告げた。
当時しばらくは、ストーカーされたらどうしよう、なんて怖かったりもしたけれど、それ以来連絡はまったくなくなった。

私はMoEでFSの人たちと遊ぶのにドハマりし、学校が終わると最速で帰って帰るなりすぐパソコンの電源を入れ、夕ご飯もお風呂も最低限で済ませ、夜2時3時ぐらいまでプレイしていた。
学校での私は変人扱いで、後に「中学の頃クラスで一番最初に話しかけたの俺だったよな?な?あの頃のお前、休み時間は本読んでるし、終わるとすぐ帰っちゃうし、誰とも話さないから誰も話しかけられなくて、その中で話しかけるの勇気いったんだぜー」なんて言われることになる。
話しかけられたときのことはまったく覚えてない。
私の自己認識では、「ネットに友だちがいるからリアルには友達がいなくてもいい。私は同世代より大人だから同級生とは話が合わない。大人の方が話が合う」という自己認識になっていた。
初音ミクの「本当の自分」という曲の「友達は電子でできた淡く光る箱庭の中 離れやすく近づきやすい 目障りなら突き放せばいい だけど気づいてる 満たされていない存在 こんな自分を捨てて生まれ変わりたいんでしょう」という歌詞に、そんなものは欺瞞だ、ネットの友達は所詮仮初、お前は一人ぼっちなのが現実だ、と突き付けられた気がして辛かった。

FSでの私は、子供なのに子供らしからぬ話題を話す面白い子、自我が強くて誰も逆らえないお姫様、だったのだと思う。
FSマスターと旧知の友人であるFSメンバー、M氏が「彼の友人である俺にはマスターが君をお姫様扱いしているのがわかるよ」と言っていた。
私が「ザブールがいい」と言えばその晩の狩りの対象はキングサブールになり、「パレスに行きたい」と言えば狩場はタルタロッサパレスになった。
一度「この人数では厳しい」と反対されたときに、多数決を取り、反対が多かったため諦めたら、「まさか諦めるなんて。鶴の一声で反対を押し切って行くことになるのかと思った」と驚かれた。
私自身は当時から不器用で察しが悪いながらも精一杯みんなの幸せを考える人間であることは変わっていないと思うのだけれど、私の人柄がどうであるか以上に周囲がおじさんだらけのコミュニティに単身飛び込んできた女子中学生をお姫様扱いしていたのだと思う。

当時の私は、自分の顔のことを写真に写したらカメラが腐るぐらい不細工だと思っていたから、絶対にオフ会、ビデオ通話、写メ交換等の顔がバレるものは避けていた。
「学校で顔を教えてはいけないって言われているから」という言い訳はとても便利だった。
それでも、相手はかわいい子が画面の向こうで相手してくれてると期待しているはずなのに、それを騙している、という罪悪感と、だからこそ顔を見せないで相手の夢を壊さないでいることが私の責務だという意識があった。
当時の私が性的な肉体関係についてどれだけ理解していたのかもう覚えてない。
下手したら、子供の作り方をyoutubeで見たナメクジの交尾しか知らないぐらいだったかもしれない。
ナメクジのアレを人間同士でやるとは一体どういうことなんだ?と疑問に思っていた時期はしばらくあった。
あるいは、ネトゲ廃人をやっていた期間に、セックスという概念を学んだかもしれない。
そんな気がする。
とにかく、少なくとも、男は会って触れることを望んでいる、私のことをスクリーン越しに抱きしめたいと思っている、私はそれをわかっていて胡麻化して回避している、騙している、という意識はあった。
通話はしたことはある。
かわいい声だ、女の子の声だ、とちやほやされて、私は愛されていると安心し、ネカマではなくてほんとに女子中学生だと証明したと、会うつもりがないのにその気があるふりをしている罪を少し償った気持ちになった。

FSメンバーみんなでわいわい狩りに行くのも好きだったが、まだ日中の人の少ないときや、みんなが寝静まった深夜に、メンバーの誰かと二人っきりでMoEの広いマップをのんびりしゃべりながら旅するのも好きだった。
キャラクターを相手のすぐ隣に座らせて、相手を褒めたり、「ぎゅー」なんてスキンシップを連想させる効果音で会話していると、相手が自分に気があるのではないかと誤解するとわかってあえてやっていた。
空気を読めない、気づかないうちにすぐに人を傷つけてしまう私には、女であること以外他人にとって価値がないと思っていたし、そうして気をひかなければ私の居場所はなくなると思っていた。
M氏には一度告白され、その場では断ったらなにをされるかわからないと思って付き合ったが、後になって大切なものであったはずの異性との付き合いがこんなネットの繋がりだけしかない、頭の鈍い相手とという形で汚されていくことに耐えられなくなって、一週間と立たないうちに「やっぱり付き合うっていうのがピンとこない」という理由でフった。
M氏は私を父が娘を愛するように愛していると言っていたし、それは嘘ではないだろうけど、もし実際に会ってカラオケボックスかなんかで二人きりになれば、彼は「据え膳」と手の平を返し、キスをして、その先も要求してきたのではないだろうかと、思わないでもない。
M氏は、5年ぐらい私の誕生日になるたびにメールをしてきたが、最近は来なくなった。
Facebookに登録したときに友だちですか?のサジェストに彼が出てきたことには驚いたし、怖かったが、彼はFacebookでは連絡を取ってこなかった。
私のこともほとんど思い出さないぐらい、彼なりの幸せへの道を歩んでいるといいなと思う。

O君という小学生荒らしがFSに参加し、荒らしすぎてマスターに追い出される事件があった。
私はO君の姿にどこにも居場所のない自分を重ね、その後しばらく、マスターから逃げ回り、「追い出してほしくなかった。彼だっていい人かもしれないのに」と訴えたが、マスターには私がなににショックを受けたのか伝わってないようだった。

その後、L氏と二人でバジリスクキングを狩りに行くことが多くなった。
L氏との狩りは効率がよく、連携もスムーズで、他の男性とふたりっきりの時みたいに接待を要求される感覚がなく、居心地がよかった。
L氏が突然ログインしなくなって、私もMoEをやめた。
後にskypeで連絡がとれ、彼が引っ越しでインターネットへのアクセスができなかったことを知った。
L氏とはその後高校生になってから一度ふたりっきりでオフで会ってみたが、L氏は相変わらず私になにも要求せず、ごく平和に一緒に遊んで、ごく平和に解散した。
私の方もその頃には、ネトゲで強いぐらいがなんぼのもんじゃい、そんなんでかっこつける人間なんて底が知れてる、というような気持ちになっていたので、その後恋愛に発展することはなく私とL氏の関係は終わった。

思い出したままにエピソードを連ねてみたけど、私のネトゲの姫歴はこんな感じだ。
もしかしたら忘れている出来事もいろいろあるかもしれないけど。
姫被害者は、私にとってはいつストーカーとして復讐に来るかわからない恐怖の対象で、吸い尽くしてポイと忘れるなんて雑な扱いができる相手ではない。
定型発達とのコミュニケーションが噛み合わないアスペルガーだった私には、これしか居場所を作る方法はわからなかったから、反省はしても後悔はしてないけど、強いて言うとすれば、発達障害の小学生、中学生が友達を作れるような支援がもっとしっかりしていれば私もあの人たちも傷つかずに済んだのに、とは思う。
日本の公立学校がそんな支援をできるようになる日が来るなんて希望は正直持てないけど。
でも少しでもいい方向に変わってくれたら嬉しい。