コンパクトでない空間

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コムチュアさん見学の話

私は就職する気もないのに、インターンシップには行ってみたいという理由でキャリタスとキャリフルに登録している、企業やキャリタス、キャリフル側からしたら非常に迷惑な存在なのだが、先日、キャリフル経由でこんなメールが届いた。

当社はソフトウェア開発をしております創業31年目の独立系SIerです。 創立以来黒字経営を維持している東証1部上場企業ですが、まだまだ成長し続けています。 現状に満足することは決してなく、常に改善できることがないかを模索し、 小さなことから一つずつ真剣に取り組んでいます。 「次の10年間で、今の10倍の企業になる」が当社の次の目標です。

さて、小林さんのプロフィールを拝見させていただきました。 「なぜそうなるのか」の原因を見つけ出し、チームで課題に取り組みたい という小林さんに、是非当社を知っていただきたいと思い、ご連絡させて頂きました。

(中略)

★また、既に応用情報技術者まで取得している小林さんには OB訪問や執行役員との面談に特別ご招待いたします! 小林さんからのお返事を心よりお待ちしております!

こんな風に個人宛にメールを送られては、無視するのは心苦しい気がしてくる。
最初は断るつもりで、就職する気はないので、と返信をしたのだけれど、こちらはそれでも構わないので話してみたい、と言う。
コムチュアのHPを見てみると、ITをリードする、と主張していて、業界向けのセミナーなども開催しているらしい。
技術力の高さに興味を惹かれたので、お言葉に甘えて伺ってみることにした。
だって、高度な技術を持っている人にはたとえどんな状況でも会ってみたいと思ってしまうのが、私っていう生き物でしょ。

のだが。
行く、と連絡して早々、早速後悔した。
だって服装がスーツ指定なのだ。
スーツ大嫌いな私は、なんでIT業界を志望するエンジニアの卵にスーツを着せるんだよ、と息巻いて、このままエントリーシートを書かせ、入社させ、ブラックに働かさせて辞めることも許さずに搾り取るつもりなんじゃなかろうか、とか勝手な妄想をしていた。
行くといってしまった以上断れないが、絶対に思惑には乗らずに帰ってやる。
ブラックなのに(確定)技術力が高い手品の仕掛けだけ見抜くために行ってやろうじゃないか。
と、総武線に揺られながら戦場に乗り込む決意をする私。
客観的に見てみると、そこまで嫌なのに断れずに行ってしまってるあたり、いくら意気込んだところで全然戦いに勝てそうにない。

実際のコムチュアさんはまったくそういう悪どい企業ではなかった。
進路相談にのってもらい、コムチュアの理念の話を伺い、「友達に就活してるひとがいたらおすすめしといて」と、「長期インターンシップをするときは連絡するね」と言われて帰って来た。
とても優しい方でした。
疑ってかかっててすみませんでした。

個人的にためになるなあと思ったのは、IT分野で研究を行っている企業の話だ。
友達といい親戚といい、私は技術者と研究者に囲まれているが、私自身もそのどちらからまたはその中間のどこかになるのだろうと思っている。
そんな話をしたら、「ハードウェアだと研究をしてるとこもあるけど、ソフトウェアで研究やってるとこは国内にはあんまりないよ」とのこと。
ハードウェア、というのは具体的にはAppleMicrosoftgoogleなどを含むらしいので、外資は研究をしているが国内企業はしていない、の方が的確な表現なのかもしれない。
この前ディズニーが論文を出したなんて話も聞き齧ったけど、それを鑑みてもそういうことなのだろう。
国内企業で論文を出しているのはNTT Dataや野村総研ぐらいだ、とおっしゃっていた。
そういった国内の王手企業でのソフトウェアの研究は、基礎研究ではなく既存の技術をいかに応用するかの研究だ、とも。
なんかその「研究」は私がやりたい研究とは違う気がする。
やはり私が目指すべき方向は外資系であると再確認。

もうひとつ面白いなと思った話があった。
バグハンティングコンテストの話題を出した時のことだ。
(バグハンティングコンテストについてはこちらを参照)
専門家に頼まずに学生に頼む意図ってなんなんでしょうね、と尋ねたら、プロよりも学生のほうがかえってクオリティが高いことがある、という話をしてくださった。
プロはもらった額以上の仕事はできない。
できないというよりしてはいけない。
単純に言えば額÷時給以上の時間をかけて仕事をしたら赤字だし、30分のマッサージコースの値段で40分マッサージするようなサービスが当たり前になってしまったら、自分の首をどんどん締めることになる。
プロであるということ、仕事というものの本質がお金を手に入れることである以上避けられないことだ。
その点アマチュアはお金のためにやっているわけではないので、時給とか、収支とかには縛られず、時間と好奇心が続く限りどこまでも突き詰めることができる。
これはイラストの世界で聞いていた話だったので、私にはすぐ腑に落ちる話だった。
私のお母さんはプロのイラストレーターで、よくアマチュアはいくらでも時間をかけるから怖い、ときにプロよりすごい仕事をする、と言っていた。
プロがプロであるがゆえに足枷をはめられるというのはなんだか矛盾してるようで面白い。

友達に宣伝しといて、と頼まれたので、義理がたい真面目人間として、コムチュアの紹介もしておこうと思う。
実際よい企業だと感じたし、よい情報は一見自分にメリットがないように見えてもシェアする、というのがこのブログのコンセプトであり私の方針だ。

話を聞いていて、特徴的だと感じたのは、社員を専門家に育てようという意識の強さだ。
ひとつのプロジェクトにおいて、マネジメントからセキュリティから、さまざまな技術が必要とされ、それらの分野のいずれかの専門家になれるように、社員の才能を見極め育てていく、という方針らしい。
マネジメントをひとつの専門家として評価し、専門的な技術を要求している時点で、某自殺者を出した会社とは大違いだ。
プロジェクトは計画通りには進まない、そんなところが仕事は面白いんだ、と笑顔で話されていて、この人、計画通りに進まない困難を乗り越える達成感がほんとに好きなんだなあとほっこりした。
好きなものがある人が好きなものを語る様はそれだけで見ていて幸せになるよね。

技術者にしても企業にしても、インプットとして身に付けるべき技術と、アウトプットして収入に結びつけられる技術は必ずしも一致せず、その両面のバランスを取ることが必要だ、ということも話されていた。
実際、継続的な黒字経営と、AIやIoTなどの流行りもの技術によるビジネスの模索とを両立しているらしい。 また、コンサルティングにも力を入れているのも特徴かもしれない。
企業のビジネスのうちの一部のサービスの開発を任されて満足するのではなく、企業のビジネス全体をIT技術の側面からガイドするような、既存の他のサービスや技術との相性も考慮した提案をすることを重視しているそうだ。
単なる下請けではなく、できるだけ上流側に、下請けの中の一番上流側、ビジネス全体を見渡せる立場に立つ。
そういうの、一次請けと言うんだったか。

専門家に育てる、というのは、企業の中で飼い殺すのとは正反対の立場だ。
入社時点での技術力がなくても向上心さえあればうちで育てる、と言っていたから、技術者のキャリアのステップアップを手助けして送り出している側面すらある気がする。
今回お話ししてくださった人事の方も、「外資に興味がおありなら、外資に転職を目指すための経験を当社はで積んではいかがですか」といった雰囲気があった。
うちは外資にも劣らないと思っているからこそ雰囲気だけで口にはしなかったのだろうけど。

一時期は大企業だけではなく、中小にも優良なところはある、中小に目を向けよう、なんて言われていたけど、実際中小企業の情報は少なくて、優良な中小がどこなのか判断がつけられないがゆえに、大企業志望という人は多いのが未だに実情だろう。
コムチュアさんはそういった優良な中小企業のひとつであると、その中でとくに光るものをもっている会社であると感じた。
ベンチャーと呼べるほど新しくはないけど、雰囲気は滝を登り今まさに龍にならんとしている鯉のそれだと感じた。
なるほど、これからこの鯉が龍になっていく10年間を内部で働きながら間近で見るのはさぞ人生面白かろう。
私が就活とか企業研究とかろくにしてないので、説得力には欠けるかもしれないが、これが私の感じた率直な感想だ。
起業するならこういう企業を目指すべきなのだろうと感じるお手本のような社会に対する適応力、社員とお客さんと会社の三者の利益を最大化して維持していく力を感じた。

最後に、窮屈なスーツと慣れない靴を履かされた恨みを込めて、「なんでスーツ指定だったんですか?」と聞いてみたら、「就活の練習になるかと思って」と言われた。
なるほど、おそらくコムチュアさんにとって既にスーツが嫌いな技術者になっている限られた学生は想定外なのだろう。
学生に技術力まで要求していたら誰も採用できなくなってしまうから、だから就職イベントは技術者ではない普通の学生向けに開くのだろう。
コムチュアさんからしたら、そんなにスーツが嫌いだったとは、ごめんね、ってとこかもしれない。